三島由紀夫生誕100年、再演されるバレエ『M』
2025年、三島由紀夫が生まれてから100年を迎える記念すべき年に、東京バレエ団によるバレエ『M』が再演されることとなりました。この作品は、偉大な振付家モーリス・ベジャールによって1993年に創作され、三島の独特な芸術観と精神を体現するものです。
ベジャールと三島の美の世界
モーリス・ベジャール(1927~2007)は、20世紀の舞台芸術においてその影響力を発揮した巨匠です。特に、日本文化や伝統に深い愛情を持っていたベジャールは、三島由紀夫という日本の文学界の重鎮にインスパイアされたバレエ作品を生み出しました。『M』は彼の文学作品のエッセンスを取り入れつつ、バレエという舞台上の表現手法で三島の芸術的存在感を視覚化することに成功しています。
この作品は実際の三島の作品を直接バレエ化するのではなく、彼自身を表現するための作品と位置づけられています。特に、「潮騒」や「金閣寺」、「鏡子の家」など、三島の名作が折り重なり、言葉を超えた美しさが舞台上に展開されるのです。観客は、舞台のオープニングから、一気にこの独自の世界観に引き込まれます。
深い情熱と美しさが詰まった舞台
開幕のシーンでは、ピュアな少年三島が老婆(祖母)に手を引かれて登場し、その後、女性ダンサーたちによる美しい群舞が観客を魅了します。東京バレエ団のダンサーたちが一体となって創り出す力強い踊りは圧巻で、100分間のパフォーマンスは息をつく暇も与えないほどの濃厚さを持っています。
作品『M』のタイトルには、三島の名前の頭文字だけでなく、海(Mer)、変容(Métamorphose)、死(Mort)、神秘(Mystère)、神話(Mythologie)など、彼の人生の象徴が込められています。そして、この作品は、同じく45歳で亡くなった三島に捧げられたものでもあるのです。
現代に甦る三島の魂
著名な文芸評論家、故奥野健男は『M』の初演を観た際、「ホール全体に三島由紀夫の魂がいきいきと蘇るのを、この目で確かめた」と述べています。この度の再演で、現代の観客も三島の深い思索や情熱に触れる機会が提供されることを期待しています。
先日、東京バレエ団はマスコミ向けにリハーサルを公開しました。ダンサーたちは真剣な表情で稽古に励み、特に男性ダンサーたちの武士道の一幕は圧倒的でした。三島の分身とも言える男性4人が、強烈な踊りで観客を魅了します。これが東京バレエ団の特長とも言える男性ダンサーの充実ぶりです。
多彩な音楽で彩る舞台
『M』のもう一つの魅力は、その音楽です。黛敏郎による20を超えるオリジナル楽曲や、ドビュッシーの名曲、さらにはシャンソンやワーグナーのピアノ演奏など、多岐にわたる楽曲が巧みに組み合わされており、ベジャールの手腕が光ります。今回はピアニストの菊池洋子が演奏を担当し、その素晴らしい音色がバレエの世界観をさらに深めることでしょう。
芸術的な進化と深化
三島由紀夫生誕100年という特別な年に行われる大舞台『M』。三島の作品、そして日本のバレエ界が進化を遂げる様子を、ぜひ体験してください。32年の時を経てもなお、世界的な舞台芸術として存在し続ける『M』は、今後も長く踊り継がれていくに違いありません。
公演詳細
- - 公演日程: 2025年9月20日(土)、21日(日)、23日(火祝)
- - 会場: 東京文化会館
- - 音楽: 黛敏郎、C.ドビュッシー、他
- - チケット価格: S席15,000円、U25席2,000円など
その圧倒的な美と力を体感する機会を逃さず、この芸術の舞台にぜひ足を運んでみてください。