発酵業界が抱える課題と未来を探るシンポジウムの報告
2026年2月21日、株式会社糀屋三左衛門は、食品製造業の未来を考えるシンポジウム「KOJI THE KITCHEN academy vol.6」を開催しました。愛知県豊橋市に本社を置く同企業は、600年の歴史を持ち、種麹の製造・販売を行う老舗です。当日は、醸造家や食品業界の関係者など約100名が参加し、リアルとオンラインで活発な議論が交わされました。
伝統と市場の変化に挑む背景
近年、日本の発酵食品には国内外からの注目が集まっています。しかし、食品製造業界では人手不足や原材料の高騰、市場の急変など多くの困難に直面しています。特に、長年にわたり磨かれてきた高品質な技術は、工場内に閉じ込められたまま次世代に受け継がれず、衰退の危機が迫っています。このシンポジウムは、発酵食品製造を単なる作業ではなく、自然・社会・経済が統合された「美食学(ガストロノミー)」と再定義し、持続可能な産業に向けた指標を探ることを目的としています。
4つのセッションで語られた未来のビジョン
シンポジウムでは、4つのセッションが設けられ、持続可能な産業を目指すための具体的な道筋が示されました。
Session 1: Fermentation as Design「デザインとしての発酵」
このセッションでは、関谷醸造が提唱する「お酒のオーダーメイド」の取り組みを通じ、清酒醸造がクリエイティブなデザインへと再構築される様子が紹介されました。顧客が持つ感情や人生のストーリーを、醸造技術によって一つの製品に昇華させる試みは、食品製造の新たな表現の可能性を示しています。
高度な醸造技術と原料の挙動を精密に制御することにより、発酵は科学と感性が融合する「デザイン」としての新たな価値を創出します。
Session 2: Fermentation Factory to Table「工場から食卓へ」
さらに、このセッションでは「大規模製造」と「大量生産」の功績とその課題についても考察されました。食の安全性を支える大手メーカーの存在は重要ですが、中小の伝統醸造所が減少している現状も浮き彫りになりました。
今後はITを駆使した消費者への直接流通や、作り手の顔が見える透明性が求められると提案されました。製造工程を可視化し、消費者が作り手と情緒的な繋がりを持つことで、食の多様性と信頼が次世代に受け継がれる新しい産業構造が必要とされています。
Session 3: Fermentation as Invisible Infrastructure「だしの循環と不可視の製造現場」
和食の重要性を担う鰹節製造の持続可能性の課題に焦点が当たります。現代では大量生産の影響により、伝統的な製造プロセスが危機に瀕しています。消費者がその価値を理解し、適切に購入することで産業を支える絆を築くことが求められています。
Session 4: Fermentation as Social Terroir「社会テロワールとしての発酵」
三和酒類や八丁味噌の事例を通じ、発酵が地元の風土や人との繋がりが重要な要素であることが強調されました。地域ブランドを育てる活動を通じて、経済以上の文化的な役割が期待されます。これが、日本発酵産業の唯一無二な競争力となるのです。
講演者からのメッセージ
KOJI THE KITCHENの29代当主、村井三左衛門さんによると、日本の発酵食品の魅力は再現性と安定性にあり、その源泉は技術と人です。今回のイベントは、発酵を社会的な視点で捉え、人と技術の重要性を示せたことが嬉しいとのことです。
アーカイブ視聴のご案内
イベントの内容はアーカイブ配信で視聴可能です。業界のリーダーたちが語る、食品製造の現状と未来をぜひご覧ください。
詳しくは、
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会社概要
株式会社糀屋三左衛門は、室町時代に創業した種麹メーカーで、全国で3,000社以上、40カ国以上の醸造業者に種麹を供給しています。独自の「麹文化」を後世に伝えるため、イベントや商品開発に力を入れています。