新たな腸内環境改善の可能性を秘めた酵母由来成分に注目
最近、アサヒグループ食品株式会社と株式会社メタジェンによる共同研究により、「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」が腸内環境の改善に寄与する可能性が示されました。この研究は、2025年5月に予定されている第79回日本栄養・食糧学会大会で発表される予定です。
研究の背景と目的
アサヒグループでは、ビール製造過程で得られる乾燥ビール酵母と、パン酵母から抽出した酵母細胞壁を有効活用するための研究を進めています。これらの酵母には、水溶性食物繊維であるグルカンやマンナンが豊富に含まれており、腸内で善玉菌を増やしやすいことが知られています。
特に、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸は、腸内環境を改善するだけでなく、体全体の健康維持にも寄与することが示唆されています。これを踏まえ、今回の研究ではこれらの酵母由来成分が腸内環境に与える影響を詳しく調査しました。
研究方法
本研究は、健常な成人39名を対象としたランダム化プラセボ対照試験として行われました。参加者は、以下の3つの群に分けられました。
1. プラセボ群(対照食品)
2. パン酵母由来の酵母細胞壁を含む食品(YCW群)
3. 乾燥ビール酵母およびプロバイオティクスを含む食品(YC+PRO群)
それぞれの群に対し、4週間の間、指定された食品を摂取してもらい、その後腸内環境への影響を評価しました。具体的には、便中の細菌叢や短鎖脂肪酸の量を測定し、排便状態の変化も観察しました。
研究結果
便中の短鎖脂肪酸や細菌叢への影響
研究の結果、YCW群では、プラセボ群と比べて特定の腸内細菌(Collinsellaおよび[Eubacterium] ventriosumgroup)の比率が有意に増加しました。また、YC+PRO群もプロピオン酸の数値が向上したことが確認されました。
これらの菌は、健康維持や腸内環境の改善に重要な役割を果たすことが期待されています。特にCollinsellaはウルソデオキシコール酸を産生し、COVID-19感染予防にも寄与する可能性があると報告されています。
サブグループ解析
参加者の初期の便中短鎖脂肪酸の値に基づき、3つのサブグループに分けてさらなる解析が行われました。その結果、以下のような知見が得られました。
- - 酢酸が相対的に少なかった群:YCW群は、酪酸産生菌である[Eubacterium] halliigroupの比率が有意に増加。
- - プロピオン酸が少なかった群:YCW群は、プラセボ群と比較してプロピオン酸が増加。さらに、排便量も有意に増えました。
- - 酪酸が少なかった群:YCW群では、[Eubacterium] eligensgroupがプラセボ群と比べて減少が抑制され、排便量も増加しました。
結論
今回の研究から、パン酵母由来の酵母細胞壁を含む食品が腸内での善玉菌の増加を促進することや、短鎖脂肪酸の生産を助ける効果が確認されました。また、乾燥ビール酵母とプロバイオティクスを含む食品は、排便状況を改善し、健康への寄与が期待できることも示されました。
今後の展望
今後も、腸内環境改善に向けた研究が進められる予定です。酵母の代謝メカニズムや有効成分の特定が行われ、より多くの人に健康的な腸内環境の改善が届けられることが期待されます。細菌叢と短鎖脂肪酸の関係に関する知見を深めることで、将来的には腸内環境を整えるための新たな製品の開発に繋げていく考えです。
これからも酵母由来成分の研究に注目していきましょう。