ぶどう畑の真ん中で紡がれる、美味しさのエッセイ
『わたしの美しい戦場』というタイトルで出版された寿木けいさんのエッセイは、彼女がオーナーシェフを務める古民家宿「遠矢山房」にまつわる物語です。この作品では、四季折々の食材を通じて人々と結びつく様子が描かれています。2023年に古民家を手に入れた寿木さんは、地元の恵みを存分に活かしながら、来訪者をもてなす日々を送っています。
四季の食材と出会う毎日
春になると、ふきのとうを摘んだり竹の子を掘ったりと、自然の恵みを楽しむ日々が始まります。夏には桃をかじりながら草刈りを行い、秋は鹿肉を焼きながら干し柿作りに励みます。冬には、薪を割り、柚子を蒸すことで、旬の味わいを最大限引き出しています。これらの活動から、生まれる料理はすべてが一期一会であり、妥協のない美味しさです。
著書の中で、寿木さんは特に調理における彼女のこだわりを語っています。『調理場にこもるのは鼻と舌が一番冴える明け方と決めている』とし、料理のプロセスに繊細さを求める姿勢が伝わってきます。たった数日の間にしか味わえない儚い瞬間を、ゲストにお届けするための努力を惜しまない姿勢は、料理に対する深い愛情を物語っています。
人とのふれあいが生む美しさ
寿木さんのエッセイには、彼女の生活の中で出会ったさまざまな人々も描かれています。赤ちゃんを待つ妊婦や子供の不登校に悩む親、夢に向かって奮闘する格闘家、離婚や病を乗り越える人々。彼らの人生の一断面が描かれ、どんな顔をしていても、その背後には大きな物語があることを教えてくれます。
このエッセイは、ただの食や暮らしの記録ではなく、人生の味わいそのものです。寿木さんは『季節は巡る。時間は薬であると信じるに足る二年間の日々を、こうして本に記す機会に恵まれたことが嬉しい』と述べており、自らの経験をもとに読者に希望を伝えています。
新しい生活への挑戦
東京を離れ、ぶどう畑の真ん中に築130年の古民家を見つけた寿木さん。その新しい環境で彼女は、さまざまなことに挑戦し、自分自身を試しているといいます。子育てと夢の実現を両立させる手法について、彼女の手から生まれる料理を通じて夢が叶う過程は、まるで短編映画を見るかのような魅力があります。
結び
このエッセイを手に取った読者は、まずその素晴らしい表現力に引き込まれることでしょう。寿木けいさんがつむぐ日々の中での四季折々の美しさや訪れる人々との出会いの中で育まれる感動を、ぜひ味わってみてください。彼女の物語は、私たちの日常にも、新たな可能性や美しさをもたらしてくれるに違いありません。